2010年11月24日水曜日

葦手書きについて

12月句会の句会のために、葦手書きについて少し書いておきます。
といっても、葦手書きについては、書き出すときりがないので、
ここでは、千代姫(ちよひめ)の調度品を鑑賞するのに、参考になることを書いておきます。

蒔絵などに使われる葦手書きの例として、室町期の「塩山蒔絵硯箱」を見ていただきます。
このサイトの検索窓に「塩山蒔絵硯箱」と入れて検索してください。

この硯箱は、『古今和歌集』の「しほの山さしでのいそにすむ千鳥、きみがみ世をばやちよとぞなく」をモチーフにしていますが、歌がすべて書かれているわけではありません。
「志本能山散新亭(しほのやまさして)」「君加見代遠盤(きみかみよをは)」「八千世登曽(やちよとそ)」の文字を葦手書きにされていますが、「千鳥」は書かれていません。
磯に住む千鳥の鳴くようすは絵で表現して、全体として『古今和歌集』の「しほの山さしでのいそにすむ千鳥、きみがみ世をばやちよとぞなく」の歌が完成するわけです。

『続後撰和歌集』の源雅実の歌「なほ照らせ代々に変はらず男山仰ぐ峯より出づる月影」を主題とした硯箱。画中には「なを・代々・男」などの文字が巧みに隠されています。

葦手書きは、歌すべてが作品中に書かれているのではなく、その断片から歌が想起されるという構造になっています。

こうした伝統を踏まえて、千代姫の「初音の調度」の呼称は、『源氏物語』の「初音」の帖「年月を松にひかれてふる人に今日鴬の初音きかせよ」の歌意を全体の意匠とし、その歌の文字を葦手書きに散らしているところに由来します。
なかでも、「鶯」と「松」は意匠として表れ、文字では表現されていません。

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